腎代替療法とは
腎臓の働きが正常の15%未満(ステージG5)まで低下すると、おしっこから老廃物や水分がうまく排泄できなくなるため、尿毒症による症状や水分過多によるむくみや心不全などの症状が出現する危険性が高まります。そのため、腎臓の代わりに老廃物や余分な水分を除去し、不足している物質を補う腎代替療法が必要となります。
末期腎不全の治療手段は、透析療法、腎臓移植の選択肢があります(図1 )。透析療法と腎臓移植は、それぞれ大きく2つの方法に分けられます。透析療法は、血液透析療法と腹膜透析療法で、腎臓移植は生体腎移植と献腎移植です。国内では約35万人、静岡県では約1.1万人が透析治療を受けていて、血液透析が約97.0%、腹膜透析が約3.0%の割合です。
主に高齢者で腎代替療法が本人にとって困難な場合、症状の軽減などの緩和的な治療を中心に行う保存的腎臓療法が検討されることもあります。
■ 血液透析療法について
血液透析は、体内に貯まった余分な水分や老廃物を取り除く治療です。血液透析は、血管に針を2本刺して血液を体外に引き出し、ダイアライザと呼ばれるフィルターの役割をする透析器(人工膜)に通します。この過程で、血液中にある老廃物や余分な水分を取り除き、不足していたカルシウムや重炭酸イオンを補い、血液を体内に戻します。
血液透析では、大量の血液を体外に出す必要があります。通常の静脈では十分な血液が確保できないため、血管の手術を行います。血管手術とは、動脈と静脈を皮下でつなぎ合わせて、「シャント」と呼ばれる、体外に勢い良く血液を取り出すための手術です。
血液透析は、週3回・1回3~5時間の治療が必要です。
■ 腹膜透析療法について
腹膜という自身のお腹の中のスペース(腹腔)を包んでいる膜にある毛細血管と腹腔に注入した透析液を介して、老廃物や余分な水分を取り出す治療です。睡眠中の時間を用いて透析液をお腹に貯留しておく方法や日中に1~4回程度の透析液の交換を行う方法があります。自宅で自身の手技により行い、通院は月に1~2回程度です。そのため時間的な拘束が少なく、社会的活動が可能となり、行動範囲の制約が少なくなります。治療開始前には、あらかじめお腹の中に透析用の管(カテーテル)を手術で入れる必要があります。
長期間にわたって血液透析を行っている方や高齢者の方では、血液透析より循環動態の安定した腹膜透析が適している場合があるため、腹膜透析を人生最後の腎代替療法として選択する考え方もあります。
透析療法の長所
血液透析
- 十分に尿毒素を取り除くことができる。
- 余分な水分をしっかり除去できる。
- 患者さん自身で行う手技がほとんどない。
- 透析時間以外は自由に行動でき、国内外の出張および旅行が基本的に可能である。
※ただし、旅行先および出張先に血液透析ができる病院があることが前提である。
腹膜透析
- 24時間連続した透析であるため、血圧が安定し、体への負担が軽い。
- 自宅や外出先でも透析液を交換できるため、時間や場所の制限が少なく社会復帰しやすい。
- 大きな問題が無ければ、月に1~2回の通院で大丈夫である。
- シャントの必要がない。
- 食事は塩分制限程度である。
透析療法の短所
血液透析
- 決められた時間、決められた場所で治療する必要がある。
- 開始時には針を刺されるために痛みがあり、透析中は限られた姿勢しかとれない。
- 一回の血液透析で2〜3日の間に貯まった水分や毒素を取り除くため、体に負担がかかりやすい。
- シャントが心臓に負担をかける。
- 食事中の塩分、水分、カリウム、リンの摂りすぎに注意が必要である。
- シャントが閉塞することがある。
腹膜透析
- 腹膜炎やカテーテルの皮下トンネル出口部の感染の危険がある。
- ほとんどの手技が患者さんにまかされるため、自分で交換手技を行える、あるいは家族や介護者のサポートが得られる患者さんに限られる。
- 清潔操作が必要なため、手技をしっかり勉強する必要がある。
- お腹の中に常に透析液を入っているため、腹圧がかかり、腰痛やヘルニアの 原因となる。
- おしっこが出なくなると、腹膜透析だけでは透析不足になる。
■ 腎移植について
腎移植は、末期腎不全の腎代替療法の1つで、働きを失った腎臓の代わりに、ドナー(臓器を提供していただく方)から左右の腎臓のどちらかの提供を受け、手術で移植することによって、腎臓の機能を回復させる治療法です。
☆ 腎移植の種類
腎移植には、生体腎移植と献腎移植の2種類があります。
◇生体腎移植
親、兄弟、祖父母などの血縁者や、夫、妻などの非血縁者から2つの腎臓のうちの1つをもらって移植する方法です。現在では血液型が異なっても、手術前に処置を行うことで移植が可能です。
◇献腎移植
脳死や心停止で亡くなられた方からの善意により、腎臓の提供を受け、移植する方法です。
日本臓器移植ネットワークに、「腎移植希望者」として登録する必要があります。
☆ 腎移植の適応について
◇レシピエント(腎臓の提供を受ける方)
慢性腎不全を患っているすべての方が対象となります。
透析をすでに始められている方はもちろんのこと、これから透析をスタートされる方も対象となります。
年齢や腎不全の原因となった病気(糖尿病など)の進行具合、透析期間によっては、手術が難しい場合もあります。
また、がんや感染症がある場合は、残念ながらすぐには移植手術が行えません。
◇ドナー(腎臓を提供していただく方)
生体腎移植の場合、6親等内の親族ならびに3親等内の姻族がドナーとして腎臓の提供が可能です。
自ら提供の意思をお持ちの方で健康であれば、全身の精密検査を行い、提供が可能かのチェックを行います。
◎レシピエントとドナーの血液型について
レシピエントとドナーの血液型が違っても移植は可能です。
血液型が異なる移植(ABO血液型不適合移植)を行う場合は、手術前に血液浄化療法(血漿交換、二重濾過血漿交換法)を追加することで、レシピエントの体内に存在する抗体を事前に除去します。また免疫抑制薬も術前から内服します。このような追加処置により、現在では血液型が違っても安全に移植することが可能です。
◎年齢について
レシピエント上限年齢は決まっていませんが、高齢になるほど心肺機能の衰えなどもありますので、
慎重に検討する必要があります。最終的には検査を受けていただいて、手術可能かを判断します。
⬛︎ドナー
ドナーの年齢は生体腎移植ドナーガイドライン(日本移植学会、日本臨床腎移植学会)に基づき、20歳以上70歳以下とされています。
◎夫婦間での移植について
夫婦間のような非血縁者間での生体腎移植も可能です。年は免疫抑制療法の進歩や血液型が異なっても移植成績が良好なことを背景に、全国的にも夫婦間での腎移植も増えています。
◎腎移植ドナーの予後・リスクについて
腎臓摘出には手術が必要なため、全身麻酔、疼痛、手術創痕などの一般的な手術のリスクが発生します。また腎機能が腎臓提供前の60〜70%になります。そのため、片腎提供後のドナーは腎臓への負担を軽減するために塩分摂取量を控えめにすることが勧められます。生体腎移植ドナーガイドラインの基準を満たす方から腎臓を提供していただいた場合、腎臓が1つになっても生涯透析が必要になることはまずありませんが、腎臓を提供した影響で将来的に透析治療が必要となるリスクも完全には否定できません。
△ 腎移植がのぞましくない条件について
・治癒していない、または治癒後間もない悪性腫瘍
(がん・肉腫)
・慢性または活動性の感染症
・性格や気質、精神疾患により自己管理ができない方
・全身麻酔を含めた大きな手術に耐えられない心肺機能の低下
・献腎移植ではドナーのリンパ球に対する抗体を有する方 (クロスマッチ陽性)
△ 日本臓器移植ネットワークへの登録について
・「献腎移植新規登録用紙に記入」
記入用紙は移植施設にあります。
・HLA検査結果の提出 病院で白血球の型を調べてもらいます。
・登録料 新規・・・30,000円 更新・・・5,000円(年1回)
※平成28年4月1日以降は、腎臓移植を希望される移植施設にて年に1回以上の診察と評価を受けることが登録更新の必須条件になります。
・静岡県内の腎移植可能施設
地方独立行政法人静岡県立病院機構静岡県立総合病院
〒420-8527 静岡市葵区北安東4-27-1
054-247-6111
焼津市立総合病院
〒425-8505 焼津市道原1000
054-623-3111
浜松医科大学医学部附属病院
〒431-3192 浜松市東区半田山1-20-1
053-435-2111
△ 移植にかかる費用について
移植手術にかかる費用は、健康保険の適応となります。ドナーの方の医療費も、レシピエント側の保険でまかなわれます。
加えてさまざまな医療費助成制度がありますので、患者さんの負担する金額は少なくてすみます。
血液透析 |
腹膜透析 |
腎移植 |
|
腎機能 |
改善はしない |
ほぼ正常に近い |
|
必要な薬剤 |
貧血・高血圧・骨代謝異常・高リン血症に対する薬剤 |
免疫抑制剤とその副作用に対する薬剤 |
|
生命予後 |
移植に比べ悪い |
優れている |
|
心筋梗塞・心不全・脳梗塞の合併 |
多い |
透析に比べ少ない |
|
生活の質 |
移植に比べ悪い |
優れている |
|
生活の制約 |
多い (週3回、1回4時間程度の通院治療) |
やや多い (透析液交換・装置の セットアップの手間) |
ほとんどない |
社会復帰率 |
低い |
高い |
|
食事・水分の 制限 |
塩分・水分・ カリウム・リン |
塩分・水分・リン |
少ない |
手術の内容 |
シャント (小手術・局所麻酔) |
腹膜透析カテーテル挿入 (中規模手術) |
腎移植術 (大規模手術・全身麻酔) |
通院回数 |
週に3回 |
月に1~2回程度 |
移植後1年以降は 月に1回 |
旅行・出張 |
制限あり (通院透析施設の確保) |
制限あり (透析液・装置の準備) |
自由 |
スポーツ |
自由 |
腹圧がかからないように |
移植部保護以外自由 |
妊娠・出産 |
困難を伴う |
腎機能良好なら可能 |
|
感染の注意 |
必要 |
やや必要 |
重要 |
入浴 |
透析後はシャワーが 望ましい |
腹膜透析カテーテルの 保護が必要 |
問題ない |
その他の メリット |
医学的ケアが常に提供される、最も日本で実績のある治療方法 |
血液透析にくらべて自由度が高い |
透析による束縛からの 精神的・肉体的解放 |
その他の デメリット |
シャントの問題(閉塞・感染・出血・穿刺痛・シャント 作成困難) 除水による血圧低下 |
腹部症状(腹が張る等) カテーテル感染・異常 腹膜炎の可能性 蛋白の透析液への喪失 腹膜の透析膜としての 寿命がある(10年位) |
免疫抑制剤の副作用 拒絶反応などによる 腎機能障害・透析再導入の可能性 移植腎喪失への不安 |